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アメリカとカナダの聴覚障害者向け番組  -2-アメリカにおける聴覚障害者向け番組  ~字幕番組~ 国学院大学講師  秋山  隆志郎
   アメリカでは、手話番組が極めて少ないことを前号に書いた。ところが聴覚障害者向けの字幕番組については、その量のみならず、行政の施策においても世界のトップを走っている。
 私は、昨年11月のアメリカ取材中、ワシントンDCやニューヨークの宿舎で、ひまな時間があれば昼夜テレビの字幕をチェックしてみた。ワシントンでもニューヨークでもホテルにはCATVが入っており、35チャンネルから40チャンネルのテレビを見ることができたが、ゴールデンアワーの番組には、ほとんどすべて字幕がついていた(写真1)。夕方から零時過ぎにかけては、ニュースやスポーツ専門チャンネルも見たが、ニュースはもちろんのこと、野球、アメリカンフットボール、アイスホッケーなどのスポーツ番組にも字幕つきの番組が多い(写真2)。これらはナマ放送であるから、リアルタイムに字幕をつけてあり、アナウンスの3秒から5秒遅れで字幕が現れてくる。またCMにも字幕がついているものがある(写真3)。
 2002年2月にイギリス取材を行ったとき、地上波の番組には80%ぐらいの字幕が付加されていたが、衛星放送番組には字幕はほとんどなく、これは今後の課題であるという話を聞いた。それと比較するとアメリカの方がかなり進んでいるといえよう。
写真1
写真1
  写真2
写真2
  写真3
写真3
  1  アメリカの字幕放送関係法
   アメリカでこのような字幕が普及したのは、いくつかの法律の制定によるところが大きい。まず1990年の「障害を持つアメリカ人法(ADA法)」の制定がある。これにより、政府が制作するかスポンサーになっている番組には、すべて字幕をつけなくてはならなくなった。次に1994年にデコーダー回路法が施行された。これは、アメリカで生産されるか、アメリカに輸入される13インチ以上のすべてのテレビ受信機には、字幕受信回路を内蔵しなければならないという法律である。さらに1996年には電気通信法が改正され、新作番組は2006年までには字幕付加100%にしなければならないと決められた。
  2  字幕制作会社
 
写真4 ジャック・L・ゲイツ NCI社社長
写真4 ジャック・L・ゲイツ
NCI社社長
  アメリカには、自社で字幕を作っているテレビ局もあるが、数多くの字幕制作会社もある。字幕制作の最大手はNCI社、キャプションセンター、VITAC社の3社である。私は、2002年11月にワシントン市の近くにあるNCI社を訪問し、社長のジャック・L・ゲイツ氏の話を聞いた(写真4)。
 聴覚障害者向け字幕を大別すると、録画字幕とナマ字幕の2つになる。これは入力方法が異なるだけでなく、テレビ画面の文字を読んでも、すぐそれとわかる特徴がある。
 録画字幕とは、放送の日時よりだいぶ前に完成している番組につける字幕である。ドラマやアニメの字幕には、これが多い。ナマ字幕は、ニュースやスポーツ中継などのナマ放送につける字幕であるが、放送の数日前や数時間前に完成し、時間的な余裕がない場合は、録画番組にもナマ字幕をつけることが多い。
 NCI社は1980年に業務を開始した。当初は年間僅か832時間分の字幕しか作っていなかったが、2002年の字幕制作量は1万4000時間に及ぶという。2000年のシドニー・オリンピック、2002年のソルトレイクシティー冬季オリンピックでは、NBCの依頼を受けてNCI社がナマで字幕を制作した。
 ゲイツ社長の話によると、前記の3大字幕会社のほかに、アメリカには中規模の字幕制作会社が約10社、小規模の字幕制作会社は120社もある。字幕制作会社はテレビ局と契約して字幕をつけるのであるが、顧客獲得競争は激烈だという。
  3  字幕の制作
 
写真5 録画番組の字幕制作風景
写真5 録画番組の
字幕制作風景
  写真6
写真6
 録画番組の字幕制作の手順は、日本のそれと大体同じである(写真5)。まず、ビデオテープを再生しながら、番組の音声内容を文字化しコンピュータに入力する。この場合、台本があれば作業は早く進むが、台本のないトークショーやステージ・ミュージカルショーなどの場合は、ここが最も時間がかかる。社長の話によると、8年くらい前までは音声情報を要約して字幕にしていたが、それにはいくつかの問題が出てきたので、現在では音声をすべて文字にするという。要約に伴う問題とは、字幕入力者の個人差が大きいこと、音声を聞きながら字幕を読んでいる視聴者、例えば健聴者や軽度の難聴者からの批判があったこと、それに要約するほうがかえって経費も時間もかかることなどである。コンピュータへの入力が終わると、テレビの音声と一致するようにタイム・コードを入力する。
 ナマ字幕の制作の手順はまったく異なっている。
 NCI社では、全米各地にあるテレビ局から衛星回線または光ファイバー回線を通じて送られてくるナマ番組を視聴しながら、ステノグラフという特殊の機器を使ってナマで字幕をつけ、それを再び電話回線でテレビ局に送り返して、字幕つきで放送している。写真に写っている右端の女性がステノグラフ入力者である(写真6)。高い能力の人になると1分間に280字入力ができ、かつ正確度が99%であるという。モニター画面を見ていると、だいたい音声の2秒遅れで字幕が出現することがわかる。
 なお、われわれが今回の取材で宿泊したホテルには、どの部屋にも字幕番組用のテレビ受信機が置いてあった。これは公共の用に供する施設は、すべて障害者の利便をはかるよう対処しなければならないというADA法によるものである。
 
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