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放送教育ネットワーク

 これまでの2回は、日本の放送教育を考えてきた。この最終回では、海外の放送教育を見渡すことで、逆にわが国の特徴や行方を考えていこう。とはいっても世界は広いし、ページの制約もある。私がこれまで直接に見聞した事例だけに限定して、紹介したいと思う。

 「放送番組は政府の指導と統制の下で」というのが、途上国のほとんどである。ロシアや中国などの社会主義国は申すに及ばずであるが。私が、JICAの専門家として直接にかかわったスリランカ、タイ、ケニアでは、いずれもシナリオは例えば文部省が検閲するし、番組を放送する許可は、郵政省が下す、というように二重のチェックがあった。放送教育の国際会議、特にアジア・太平洋地域のそれでは、オーストラリア、ニュージーランド、日本と、その他の国々では、この政府の統制の下で「under the control of government」という文言をめぐって、いつもすれちがいを痛感してきた。と同時に戦後の占領下(1950年)に、公共放送(NHK)の礎を築いた先達に、最大級の敬意を表したいのである。
もちろん政府主導といっても、例えばシンガポールのように、メディアの発展や行き先を、常に時代を先取りする方向で、新しい施策を実行してくる国もある。放送教育の番組作りのノウハウを日本に学び、いち早く録画・録音した番組の再生利用の道を開き、教科書や模型やテスト問題などとのメディア・ミックスの手法を採用してきたこの国は、今年の1月から地上波での放送教育番組を中止した。自前で作ったCD-ROMと、主にアメリカからの輸入品とを各教室に配布し、インターネットで教室をつなげ、IT革命の先端を切りつつある。ただ極端に語学(英語と母国語)と数学・算数に偏ったソフトではあるが。

 学校や教室のIT化が、とてもそこまでは及ばない途上国では、衛星放送や、遠隔授業に活路を求めつつある。例えばタイ国である。この国も長らくの間、NHKの技術指導が続いたが、今では国の力点は、地上波よりも衛星を利用しての遠隔授業に移りつつある。日本人による日本語、フランス人によるフランス語の授業を教室で撮影し、そのまま全土に衛星で送信する。全国各地の学校は、それを生(ナマ)で受信し、録画でも再利用する。どんな地方の小規模校にも、ネイティブと児童生徒の教授=学習の様子が行き渡る。特定の学校からは、逆にネイティブとの質疑応答も可能であり、遠隔双方向授業の方策が、国王直属のプロジェクトで進められている。
広大な国土を持つ国とか、多くの島からなる国、さらには首都や大都市と、農山村との文化的格差が大きい国々では、この衛星による遠隔双方向学習が、これから主流を占めてくるであろう。その場合に語学と数学・算数が基礎であることはわかるのだが、もっと理科(それも実験を伴う化学や物理)や社会科(地理や文化史)をやさしく、丁寧に解説して送れないものかと思う。首都の国立大学の教授が、研究室から送受信してくれれば可能になる。現にバンコクのチュラロンコン大学に勤める私の友人は、その実現を目指して努力し、その経過を電子メールで、あるいは来日して、相談してくれている。

 次に先進国に目を移そう。英国のBBCは、デジタル放送によって、近代外国語(フランス、ドイツ、スペイン語など)の作り方、送り方を大きく変えてきた。
個人のニーズや能力に合わせた指導と、戻りの情報が受けられるようにした。日本でも、これから英語教育が小学校におりてくると、一方向に広くばらまく今の放送システムからの切り替えが、必須になってくるであろう。
しかしBBCやC4では、社会科でも特に歴史と地理番組が、抜群に優れている。日本、アメリカ、ブラジル2000シリーズなど、鋭い視点で各国の近代史と現状を描いている。また性教育、薬害、校内暴力などのドキュメンタリー風の番組にも力を入れつつある。これらはむしろ従来からの一方向性、広播(こうはん)性を生かし、その後の発展や深化は、学級に任せる方式がとられており、生徒の意見などは、電子メールやホームページで交流させる方が有効であろう。現にそのような方策がとられている。
アメリカは州によって違いすぎて、一概には言えないが、放送番組と指導案とサブ教材などをセット化して、カリキュラム開発センターなどから配送される例を多く見てきた。結婚や定年で退職した教師たちが、番組の選定、メディア・ミックスの仕方、指導案の組み立て方などを丁寧に助言している州が多かった。個々の教師の力量、児童生徒の多様化が、日本のそれと大差があるので、すぐに日本と比較はできない。
コンピュータの小型化、携帯化、そしてネットへの接続が、北欧と並んで急激に進むこの国では、フルデジタルの番組、したがって番組と電子辞書と掲示板がセット化された教育ソフトも、有力になるのではないか。NHKの新番組『おこめ』がねらうものと共通する方向で。もちろんネットによる遠隔双方向の教授=学習は、日本とはけた違いに進んでいくであろうが。

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