

はじめに
全放連 人間力育成プロジェクト委員長
東京都千代田区立九段小学校 竹下 佳代
「人間力」とは、文部科学省 人間力戦略会議で「社会を構成し運営するとともに、自立した一人の人間として力強く生きていくための総合的な力」と示しています。具体的な構成要素は、(1)基礎学力 (2)知的能力(論理的思考力・創造力など) (3)社会・対人関係力(コミュニケーションスキル・規範意識など) (4)自己制御力(意欲・忍耐力など)であり、これらは、新指導要領で重視されている能力や前年度の研究の柱である「豊かな学力(学びの基礎力・確かな学力・生きる力)」と一致する部分が多くあります。
新指導要領の指針を視野に入れ、
(1)放送教育と人間力向上の接点を探り、放送番組の特性を充分に生かした授業の在り方を、客観的な評価を基に明らかにする。
(2)今後の放送教育研究の方向性を明らかにする上での指針(シンクタンク)づくりに寄与する。
(3)全国の放送教育実践者・研究者及び番組制作者との共同研究を通して、授業研究や全国大会での発表はもちろん、ホームページやメーリングリストなど研究ネットワークの一層の充実を図り、放送教育の普及に貢献する。
これらのことを研究の柱として、「人間力育成に資する実践」を重ねることで、放送教育の理念や放送学習がもたらす新たな可能性を探っていくのがこのプロジェクトです。
研究の内容
(1)実施期間 | 平成21年4月1日~平成22年3月31日 |
(2)場 所 | NHK放送センターを中心に全国の各学校 |
(3)委員の構成 | 全国の幼稚園・保育所・小学校、中学校、高等学校、特別支援学校の5校種の教員 NHK学校放送番組制作者 専任講師 木原 俊行(大阪教育大学教授) |
(4)研究の概要 | (ア)「放送学習」による人間力育成のための指標(構造モデル)を作成し、番組の特長を生かして育成する「人間力」について定義する。
(イ)子ども一人一人の「人間力」を育成することをねらいとした学習の在り方について考え、ねらいの達成に向けて多面的なアプローチを志向する力を磨く。
(ウ)評価方法やデータの蓄積方法の検証、外部研究機関との研究交流や協議会の持ち方の工夫により、番組及びデジタル教材の果たす役割を明らかにする。
(エ)NHKの学校放送番組制作者・研究者との共同研究という舞台を生かして、新番組の制作やデジタル教材(地上デジタルの分野も含む)の開発等の先進的な情報を積極的に求めたり、校種間の連携を図ったりする等、放送教育の新たな展開を探る。
(オ)学校放送という全国一律に活用できる教材によって研究を推進し、実践の成果を提案する・評価を得る等の研究活動を幅広く行う。そして、実践情報や番組活用の有用性をホームページや全国大会、教え方教室等で発信し、放送教育の普及に努める。 |
年間計画
日 程 | 研 究 項 目 ・ 内 容 |
4/2(木) | 研究計画立案
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6月~7月 |
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6/21(日)10:00~ |
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7月 |
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8/8(土) | 夏期研修会(目黒区立緑ヶ丘小学校)
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9月~12月 |
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9/18(金)18:30~ |
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10/27(火)~28(水) | 第60回放送教育研究会全国大会 参加・発表。 |
11/23(祝) |
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11月下旬~1月上旬 | 研究のまとめ
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12/11(金) |
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1/24(日) |
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2/6(土) | 成果報告会 13:00~16:00 内容
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2月 |
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3月上旬 |
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「人間力育成プロジェクト」とは
専任講師 大阪教育大学教授 木原 俊行
全国放送教育研究会連盟研究部(略称:全放連)では、平成20年度より、「放送学習による人間力育成プロジェクト」(略称:人間力育成プロジェクト)をスタートさせました。
「人間力」の育成は、多くの教育関係者が熱い眼差しを注いでいる問題です。人間力が意味するものについては様々な考え方が呈されていますが、少なくとも、これが複合的な概念であることは共通理解されていると言えましょう。例えば、内閣府が設けた「人間力戦略研究会」は、人間力を「社会を構成し運営するとともに、自立した一人の人間として力強く生きていく力」と定義し、「職業生活」「市民生活」「文化生活」という社会の側面と結びつくものであると論じています(市川伸一編『学力から人間力へ』教育出版)。
筆者を含む、人間力育成プロジェクトのメンバーも、人間力を多様な要素から成るものであると理解し、その上で、その中核に「共感」等を据えることにしました。これまでにも、我が国の教育放送で提供されている番組には情意性・ストーリー性といった特長があり、それを生かして、教師たちが、上述したような人間力の育成に迫ってきたからです。本プロジェクトは、その資産を「体系化」しようとする取り組みなのです。
同時に、人間力は複合的な概念ですから、その育成に番組活用を位置づける場合、「共感」等を共通のキーワードに据えるにしても、実践化のスタイルは、当然、多様化します。換言すれば、教師たちは、「我がクラス、我が校」の人間力育成アプローチを同定しなければなりません。それは、教師に、いっそう探究的な姿勢を要請します。
そこで必要とされるのは、全放連が学力向上プロジェクトで培ってきた、実践研究の方法論です(全国放送教育研究会連盟編『「放送学習」による学力向上プロジェクト・実践研究報告書2007』)。それは、例えば、地方の放送教育実践家や他の研究組織との連携、授業研究におけるワークショップ型協議の推進、成果公開のための研究会の開催やホームページの充実等です。これらの工夫はいずれも、放送番組を活用した実践に関して、幅広い意見を得ようとする努力、プロジェクトの過程と成果を丁寧に評価し、それを改善しようとする意欲の現れです。
人間力育成プロジェクトは、上述したようなアクションをさらに精錬させ、その規模を拡張させようとしています。そうした意味では、人間力育成プロジェクトは、学力向上プロジェクトを発展させるものでもあります。
全放連の人間力育成プロジェクトの営みは、そのテーマについても、その方法論に関しても、放送教育、そして教育実践研究のトップランナーと呼ぶにふさわしいものに取り組んでいます。今後、その活動や提案にご注目ください。そして、様々な形でのプロジェクトへの参加・参画をご検討ください。
第1回 人間力育成プロジェクト授業研究会
授業者 川崎市立夢見ヶ崎小学校 草柳 譲治
7月10日(金)5校時に、川崎市立夢見ヶ崎小学校4年2組を会場に、『時々迷々』「声なきメッセージ」を活用した道徳の授業が行われました。番組視聴後、3つの授業プランを想定し、児童の反応をもとに授業展開を考えるという流れの授業でした。
- プランA:マキとイズミのけんかの原因や、親友とは何かということを考える。
- プランB:悪口メールを送るか送らないか迷っているときのマキの気持ちや、自分ならどうするかということを考える。
- プランC:番組が終わった後2人は相手にどんなことを言ったかを想像し、自分がけんかをして謝りにくいときはどうするかを考える。

授業が始まると先生は子どもたちに、ケータイを使ってメールを送ったことがあるか尋ねました。するとほぼ全員の子が「ある!」と答えました。使った理由は、手紙に比べて相手にすぐ届くから。先生の「メールって便利だね」のことばに、みんな大きくうなずいていました。ここで先生は黒板に2人の女の子の写真を貼り、「きょうは『時々迷々・声なきメッセージ』という番組を見ます。この2人が中心になるお話です」と言ってテレビをつけました。
子どもたちは視聴後「えー!これで終わり?」「続きが気になる」という声を発していました。そこで先生は事前に用意していた3つのプランの内、C「番組が終わった後2人は相手にどんなことを言ったかを想像し、自分がけんかをして謝りにくいときはどうするかを考える。」を選択し授業を進めました。早速、先生は事前に用意していたワークシートを配り、イズミとマキが向き合うシーンの写真を見せました。そして、このとき2人は相手にどんなことを言いたかったを想像して、ワークシートに書くように言いました。
子どもたちからは「マキ:あの時交換日記を見せてごめんね。でもイズミとわたしが親友だってみんなに知ってほしかったんだ。 イズミ:こっちこそマキのこと無視しちゃってごめん。交換日記、また最初から始めよう」といった、お互いが自分の悪かったところを謝る内容のものなどが発表されました。こうして子どもたちの意見をもとに授業を進め、最後に、今日の授業で感じたことを一人ひとりワークシートに書いていきました。そしてそこには「これからは自分からごめんねと言うようにしたいです」「大きくなってケータイを持ったら、それで人をいじめたりしません」など、それぞれの思いが素直に書かれていました。
また、授業が終了した後の帰りの会では、情報モラルとして押さえておくべきこと「人の情報は大切なので勝手に教えたり広めたりしてはいけないこと」「困ったことがあった場合には、大人に相談すること」を指導していました。
授業後に行われた協議会では、人間力育成プロジェクトのメンバーに加え、参観した所属校の職員、参観した川崎市の情報教育研究会のメンバーとともに、ワークショップを中心とした協議会が行われ、授業についてや、番組活用のプラン、情報モラルの扱いについてなど多岐にわたる実りある協議会ができました。協議会の最後には専任講師の大阪教育大学・木原俊行教授に本授業を通して人間力育成に向けての方向性・課題について総括していただきました。

日 時 | 平成21年 2月11日(水・祝) 13:00~16:00 |
会 場 | NHK放送センター 474会議室 |
内 容 |
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昨年度は、初年度の研究のまとめとしてのプロジェクト成果報告会を「先導的教育情報化推進プログラム」成果発表会と合同で開催し、多くの方の参会をいただきありがとうございました。当日の会の様子をお伝えします。
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